妊産婦さんにとって有益なケアについて模索していると、科学的根拠に基づく医療(EBM、Evidence Based Medicine)という言葉に当たります。そしてEBMのために提供されている情報源としてコクラン・レビューという言葉を耳にしたことがある方もいるかもしれません。
出産中の女性への継続的支援についてもこのコクラン・レビューで調査・報告されているので、ドゥーラを語るにあたってこのコクラン・レビューは切っても切れない縁があります。
文献紹介をする前に、今回はそのコクラン・レビューがどういうものか、簡単に整理してみます。
―コクラン共同計画とは
コクラン共同計画:http://www.cochrane.org/ja/evidence
“コクラン共同計画(The Cochrane Collaboration: CC)は1992年にイギリスの国民保健サービスの 一環として始まり、現在世界的に展開されている 医療技術評価のプロジェクトである”
(津谷喜一郎, 正木朋也, エビデンスに基づく医療(EBM)の系譜と方向性 保健医療評価に果たすコクラン共同計画の役割と未来, 日本評価研究, 6[1] (2006), 3-20)
コクラン共同計画は1992年からイギリスでスタートし、1993年に第1回コクラン・コロキアムが開催されたのが始まりです。日本では1994年にネットワーク(Japanese informal Network for the Cochrane Collaboration :JANCOC)が設立されました。その後、2014年にはコクラン支部へ、2017年にはコクランセンターへと更に発展しています(http://www.cochrane.org/news/cochrane-japan-gets-independent-centre-status)
―コクラン共同計画の目的
コクランのビジョン(将来像):
健康と医療についての意思決定が、高品質で適切かつ最新の総合的なエビデンス(科学的根拠)に基づいて行われることにより、人々がより健康でいられる世界
コクランのミッション(目的):
利用しやすく高品質で適切なシステマティック・レビューをはじめとする総合的なエビデンスを提供し、健康に関する意思決定を情報に基づいて行えるよう後押しすること
(コクラン共同計画「コクランのビジョン、ミッション、原則」 http://www.cochrane.org/ja/about-us/our-vision-mission-and-principles)(2017/9/13)
―コクラン共同計画の活動
幅広い医学領域の様々なリサーチクエスチョンごとに、無作為化比較対照試験を中心にデータを集め、再現性、信頼性の高いシステマティック・レビューを行い、レビュー論文を作成しています。また、そのレビュー論文のデータベースがコクラン・ライブラリーです。
*無作為化比較対照試験(RCT, randomized controlled trial, ランダム割付比較試験)
研究者や参加者のバイアスが入ることを防ぐために無作為で参加者を介入群と対照群に振り分け比較する研究試験の方法。主に医療分野で用いられる。
*システマティック・レビュー(系統的レビュー)
文献をくまなく調査し、無作為化比較対照試験(RCT)のような質の高い研究のデータを、出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き、分析を行うことである。根拠に基づく医療(EBM)で用いるための情報の収集と吟味の部分を担う調査である(wikipediaより)
*レビュー(literature review, 文献レビュー)
未発表の研究を発表するのは原著論文であり、既存の原著論文をあるリサーチクエスチョンに沿って収集・分析してまとめたものをLieterature reviewという。日本では単にレビューと呼ばれることが多く、他に文献レビュー、文献検討論文、先行研究分析などと呼ばれる。
つまりコクラン・レビューとは、コクラン共同計画という国際団体によって集められ編さんされた医学文献レビューであり、研究者や参加者のバイアスの入りにくい無作為化比較対照試験を中心に集められた文献を、システマティック・レビューによって分析し現状を解説している信頼性の高いレビューです。さらに、コクランのレビューは定期的に更新され、最新の情報を得ることができるのも信頼性が高い理由のひとつになっています。
ITの発展や研究論文のそのものの増加などに伴い情報量が莫大となり、またその質も玉石混淆で、個人が情報を集めて正しく吟味し意思決定することは難しくなっているそうです。その中にあって、最新の情報をできるかぎり総合的かつ客観的に価し、提示してくれるものの代表がコクランのシステマティック・レビューなのです。
―コクラン・レビューのはじまり
コクラン共同計画を始めたのはアーチャー・コクランの弟子であるIain Chalmersというイギリスの産婦人科医で、周産期領域で10年以上行っていたシステマティック・レビューが有益であるとわかり、すべての領域に広げられたのがコクラン共同計画なのだそうです。
(津谷喜一郎, コクラン共同計画とシステマティック・レビュー EBMにおける位置付け, 公衆衛生研究, 49(4), 2000, 313-319)
-コクラン・レビューの利用
各論文は、その論文の要点をまとめたAbstract(アブストラクト、要約)が最初に書かれています。これはレビューも同じで、アブストを読むと何について書かれた論文・レビューなのかを知ることができます。コクラン・レビューではAbstractはすべて無料で読むことができます。また2013年2月からは、最新の論文が、Publishされてから1年間無料で読めるようになったようです(コクラン共同計画「Open Access」http://www.cochrane.org/about-us/open-access)(2017/9/13)
コクラン・レビューは医療従事者のみならず治療の受け手である患者や一般の人たちに情報を届けることも目的に含まれており、そのコクラン・レビューが産科領域で始まったことは、非医療従事者であるいちドゥーラとして嬉しいご縁を頂いたような気持ちが沸き上がってきます。それと同時に、導き出されたエビデンスに対し、利用者側のバイアスを入れないよう注意を払いながら読み解き、よく理解する姿勢が求められていると感じ気持ちが引き締まります。
ドゥーラに関して言えば、コクランで取り上げられている“Continuous support for women during childbirth (出産中の女性への継続的支援)” というリサーチクエスチョンがありますが、“ドゥーラ”の支援は内容もクライアントとの関係性も様々なので、出産中の継続的支援の結果=ドゥーラの効果と一概に言うことはできませんし、“ドゥーラ”という言葉が使われているときにも、その立場やケアの期間、方法などを確認しながら読み解く必要があります。今挙げたのはほんの一例ですが、利用する側が注意を払う必要性を認識することで、都合よく情報を読み取ってしまうリスクを減らすことができます。
エビデンスをよく理解し適切に現場に応用するために、今後、文献紹介などをしながらその解釈やドゥーラの在り方を考えていきたいと思っています。
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